土台はしっかりあるのに、それを壊していくアレンジ力がある
――ウチムラさんは2023年1月21日の豊洲PIT公演からTHE WILL RABBITSに正式加入しますが、これまで経験したことのない編成に戸惑いはなかったですか。
ウチムラユウキ(以下、ウチムラ) まずベースがいないことに驚きましたし、同期の経験はあったんですけど、しっかりとシーケンスがいる編成でやったことはなかったから、毎回演奏するたびに新鮮で、少しずつ掴んでいく感覚がありました。ただ多少なりともベースを弾いたり、曲作りをしたりの経験が生きた部分もあって、それほど戸惑いはなかったですね。

――豊洲PIT公演の前から、アレンジなどに参加することはあったのでしょうか。
ウチムラ ありました。「No Pressure TOUR 2022」でカバー曲をやっていたよね?
Novel Core うん。うっちーが見た名古屋公演では「魔法の絨毯」(川崎鷹也)をやった。
ウチムラ その前後に、「鍵盤を入れてほしい」ということで別のカバー曲のデータを送ってもらったよね。
Novel Core ツアーで他にカバーしたのは「歌うたいのバラッド」(斉藤和義)と「なんでもないよ、」(マカロニえんぴつ)かな。
ウチムラ そうそう。「なんでもないよ、」に鍵盤を入れたんですが、そのときにDAWをやっていてよかったなと思いました。
Novel Core うっちーとステージで一緒にプレイするまでには時間があったけど、自分たちもツアー中で、みんなでスタジオに入るのも難しかったので、まずは音楽的に一回絡んでもらって、やり取りを始めようと。それで「こういうカバーをやるから、鍵盤を弾いてみてくれない?」と、細かい仕事をお渡しするところから始まったんです。
ウチムラ 「TROUBLE」のオケヒ(オーケストラ・ヒット)とかね。
Novel Core そうだ。オケヒをライブで入れたいから、「ヒットだけ単体で録った素材を作ってくれない?」と。そうやってサウンドメイク面で力を借りるところからのスタートでした。
ウチムラ ツアーのリハにも混ぜてもらったよね。
Novel Core うっちーにNord(キーボード)を持ってきてもらって、音を出せるようにしてもらった。
――豊洲PITに向けて、何曲ぐらい仕上げたんですか。
Novel Core 26、27曲ですかね。それがRABBITSの最初の関門というか。うっちーに限らず、みんなが通ることですが、「歴代のリリース曲を全部完璧に弾けるようにしてください」から始まるという(笑)。
ウチムラ 連絡があって、「この辺をやるから、とりあえず全部弾いといてよ」とさらっと言われるんです(笑)。
Novel Core しかも譜面があるわけじゃないので、めちゃくちゃなオファーだよね。
ウチムラ まあ、当時の曲はルートものが多かったので、覚えやすさはありましたけど、それだけの曲数を覚えるのも初めての経験でした。そういう切迫した状況も逆に良かったのかなと思っていて、いろいろ良い影響を受けました。あと前にやっていたバンドはジャンルに特化した音楽をやっていたんですけど、Coreと関わったことによって、ジャンルも多彩になりました。
Novel Core ジャンルの境界線がボケるよね。
ウチムラ Core自身、いろんなジャンルをめちゃくちゃ聴いているから、曲の聴き方も変わりましたし、アレンジの面でもめちゃくちゃ幅が広がりました。
――もともとヒップホップは聴いていたんですか。
ウチムラ 自分が好きな鍵盤の人たちがビラルやNasのカバーをやっていて、ヒップホップ×ジャズみたいな音楽は聴いていました。「ジャズはヒップホップの母」という言葉があるんですけど、ヒップホップのサンプリングもジャズが多いから、馴染みも深いんですよね。僕自身、ヒップホップのカバーをやっていて、わざとピッチを上げて、サンプリングしている鍵盤を実際に弾いてみたいなこともやっていました。
Novel Core RABBITSはメンバーそれぞれの持っているルーツがバラバラ。僕自身が聴いている音楽も、作る音楽もアウトプットのレンジがめちゃくちゃ広いので、そこに対応するには、それぞれの方向に振り切っていないと難しい。「みんな同じジャンルが好きで、同じ音楽を聴いて育ってきました。だから一緒にバンドやろうよ」と、せーので始まるロックバンドとは逆じゃないとできないんです。
クラシックのルーツが強いうっちーが入ってくれたことによって、そっち方面の自分も出せるようになった。クラシックも僕のルーツには入っているけど、あまり出せていなかったところが、うっちーが入って出せるようになったし、シンセが入ることによってエレクトロなアプローチもできるようになって、プロディジー的な音も再現できるようになった。好きな音楽をやるのに必要なパーツを、少しずつみんながはめていってくれるような感覚でしたね。あと、うっちーのすごいところは、クラシック出身ではあるんですけど、いい意味で型にはまっていないところなんです。クラシックってルールが強いミュージックというか。
ウチムラ 伝統があるからね。
Novel Core 規定の旋律と譜割りがあって、これを崩したらアウト、価値がゼロになる、みたいな強い信仰心があるジャンル・カルチャーだと思うんです。そこから出てきて、土台はしっかりあるのに、それを壊していくアレンジ力がある。その能力はセッションだったり、それ以外のジャンルに触れてきたり、DTMを本人がやっていたりというところで培われているんだろうなと思います。それが僕たちの作曲フォーマットにも、すんなり乗っかってきているなと早い段階で感じて、すごく楽しかったのを覚えています。

――ウチムラさんもスムーズに溶け込めましたか?
ウチムラ メンバーやジャンルに対しての戸惑いはなかったんですけど、シーケンスがちゃんといる編成に対しての戸惑いはありました。
Novel Core 何をしていいのか分からないというのはあるよね。普通に考えたら、これだけリードも鳴っているし、シンセみたいな立ち位置の音も出ているんだから、「シンセベースを弾こうかな」「オルガンで支えるだけにしようかな」というところに落ち着いちゃう曲がどうしても出てきてしまう。でも、それを壊していかなきゃいけないという戦いだったと思います。クマさんも、うっちーを誘ったのが自分というのもあって、そこに対しての責任を感じていたみたいで。「うっちーとのやり取りは俺がやるよ」という感じで、僕が伝えたフィードバックをクマさんが翻訳して、音楽的にうっちーに落とすというのをやっていました。うっちーも後から入ってきた分、意見が言いにくかったり、自分を出しづらかったりというところがあるんだろうなというのを感じながらも、僕たちも目の前のことをやっていくしかないので、進んでいっちゃって。そのまま武道館まで行きそうだったのを手前で一回止まって。「バンドとして今の状況はまずいんじゃないか」という話し合いがあったんです。
ウチムラ 2023年の「SONICMANIA」のあたりだよね。どこまでやっていいものだろうかと自分自身も探り探りだった。
Novel Core そのときにうっちーが涙を流しながら、「言いづらいところとか、どこまで前に出ていいのか分からないところが正直ある」というのを初めてちゃんと伝えてくれて。そこからバンド全体で「もっとこうしていこうよ」という風にムードが変わって。その結果の武道館だったので、あそこら辺の時期がRABBITSにとっても一番大きい変化でした。
