かつてテレビの画面越しで観ていたアーティストと一緒にやれるのは、何よりも幸せな瞬間

――「マッパ・ノ・オウサマ」は、硬直化するヒップホップシーンへ宣戦布告するかのようなリリックが強烈です。

SKRYU 長年ヒップホップシーンにいますが、昔はポップスの風味が強いと言われることに対して、コンプレックスがあったんです。だから何くそとディスったり、あえてゴリゴリのラップ曲を入れたりしていたんですが、ある時期から吹っ切れて、あえてヒップホップの蚊帳の外に行こうとする動きをしてきた自分を全肯定してあげようという曲です。リリックにもある“居どころがないイロモノラッパー”と言われても今は全然響かないですし、なんなら俺の居場所には来られないだろうということを、感情をむき出しにして一回吐き出してみたいという思いで作りました。

――不穏なビート上を、スキルフルなラップが縦横無尽に炸裂して痛快です。

SKRYU 実はこれ一度ボツになっている曲なんです。本当に納期が短くて、3日連続で1曲ずつレコーディングしないと間に合わないペースだったので、ほとんど寝ずに「マッパ・ノ・オウサマ」を書いてレコーディングをしたら、めちゃくちゃダサかったんですよね。そのボーカルを、ビートを作ってくれたNoconocoさんが、BPMを10ぐらい上げて新しくビートを打ち直してくれたんです。次の日にはこのクオリティになっていて、もう一回録り直そうよということになりました。一度はゴミ箱行きだったのが、マッチョになって帰ってきたんです。

――「ウルフ・マン」はR&B色の強い男の色気を感じさせる楽曲です。

SKRYU 過去にデモで「狼男」という曲を作っていて、昼間はみすぼらしくて、ひげも蓄えて、風呂も入らずに、髪の毛から獣臭がしてくるみたいな男が、夜になると、毛並みをポマードで整えて、しゃきっとしたスーツを着て、満月をミラーボールに見立てて、獲物を狩りに行くみたいな内容で、そういう狼男っぽさをトピックとして使いました。この曲も納期に追われて、急がなきゃという状況で思い出して、ゴミ箱を漁りました(笑)。ただ1バース目はスラスラ書けたんですけど、2バース目になると、なかなか続きが出てこなくて……。まさにひげを蓄えて、風呂キャンしてまでリリックを書いている自分というのは、生みの苦しみでメンタルがやられているんですよね。そういうときって孤独だから人に会いたくなるんです。でも人と会って飲みちらかすと曲作りが進まない。そんなときにウルフ・マンにも家族や友達がいるんだろうなと考えたら、人間臭さを思い出そうというリリックになって、まとまっていきました。結局アイデアが出ないときに湧き出るリリックは、リアルな自分の中から出てくるんだなと痛感しました。

――「ゼクシィ・ガール」はウエディングソングです。

SKRYU アルバム収録曲で最も毛並みが違う曲です。このときも煮詰まっていたんですが、ふとスノーの「Sexy Girl」のメロディーが降りてきて、じゃあ「ゼクシィ・ガール」にするかという突拍子もないギャグから始まった曲で、出会ってから死ぬまでの、理想の結婚生活を急ピッチで書き上げました。これもオールフィクションなんですが、リリックでサンプリングしたネタが平成なので、今の若い子たちに分かるんだろうかという興味があります。

――「Summer Breeze」に続いて、tofubeatsさんとのタッグです。

SKRYU 昔からtofubeatsさんの曲が大好きで、いつかご一緒したいと思っていたビッグネームの一人だったので、二つ返事で「Summer Breeze」をやってくれたのは信じられないことでした。今回はデモを3つも送ってくれて、その中からニュージャックスイング風のビートを選んで、僕がリリックを乗せて送り返したものを、「めちゃくちゃすごい」と褒めてくれて、見事なアレンジを施してくれました。特にフック前の旋律が加わったところを、ドラマティックにしてくれたのがお気に入りです。

――「イッツ・ア・ニューデイ (feat. MONKEY MAJIK)」はMONKEY MAJIKとのコラボレーション曲です。

SKRYU MONKEY MAJIKとの出会いは「空はまるで」という曲で、リアルタイムで聴いていたんですが、そのきっかけが同居していた叔父のアラームがその曲だったんです(笑)。20代前半の頃はMONKEY MAJIKばかり聴くくらいのファンだったので、僕がアウトプットする要素の中に、自然とMONKEY MAJIKの影響が出ていると思います。それでオファーをしたら、快く受けていただけました。

――どのように曲作りを進めたのでしょうか。

SKRYU テーマを決めたのは僕で、叔父のエピソードを話した上で、「僕がMONKEY MAJIKの皆さんと一緒に曲を作れるということは、叔父のアラームが、夢が叶うアラームになった気がします。だからアラームというテーマで作りませんか」と伝えたら、めちゃくちゃ喜んでくれて、フックに「空はまるで」のサンプリングを入れてくれたんです。まず僕がバースを持っていったら、とても褒めてくださって。バースだけだった曲に、とんでもなくキャッチーなメロディーをつけてくれて、まさにMONKEY MAJIKらしい曲になりました。

――レコーディングで印象的だったことはありますか。

SKRYU 本RECは別々でおこなったんですが、制作セッションは仙台在住のMaynardさんのご自宅でさせていただいたんです。メロディーラインを作ってきてくれて、「SKRYUはここを歌ってよ」と言われたときに、MONKEY MAJIKの目の前でボーカルを録るということに、エモさと緊張とゾワゾワが一斉に押し寄せて、めちゃくちゃ思い出深い一日になりました。かつてテレビの画面越しで観ていたアーティストと一緒にやれるのは、何よりも幸せな瞬間ですが、それが最も良い形で叶いました。そういう奇跡が起こりうるためには、布団の中でウジウジして昼まで寝てる場合じゃないぞ、走り出さないと何も起こらないよという、みんなへのライトな問いかけになっています。

――「グラスヲカカゲテ」は華やかなパーティーチューンですが、忙しいのに飲みの誘いを断れずに、ちょっとだけと合流したら、結局酔いどれてしまうというシニカルなリリックもあります。

SKRYU これも生みの苦しみ系の曲なんですが、キャッチーなメロディーまではすぐだったんですけど、途中まで曲を書いていたら、「こんな辛気臭い曲、誰も聴きたくないわ」と作業が止まってしまったんです。このまま無駄な時間を過ごすくらいなら、こんな曲はボツにして、早く友達と飲みたいという気持ちになったんです。制作があるからと飲みの誘いを断ったけど、人生で友達とあと何回飲めるのかな、ましてや親父なんて飲める回数も限られているなと、ふと気づいたのを歌詞にしました。

――最後を飾るのは「イレブン・バック」です。

SKRYU アルバムに収録するか最後まで迷った曲です。僕は愛媛大学に通っていて、そこでラップを始めたんですが、「イレブン・バック」はそんな第二の故郷をホームとするサッカーチームの愛媛FCに公式応援ソングとして提供した曲なんです。サッカーのこと、チームのことにフォーカスするので、アルバムのメッセージとしてはそぐわないと思ったんですよね。

――なぜ収録を決めたのでしょうか。

SKRYU 昨年、「Dancing in the dark」という曲を愛媛FCに提供しているんですが、そのシーズンにJ2からJ3に落ちてしまって、選手たちが闘志を失っている中で、鼓舞する曲を書いてくださいという依頼だったんです。そこで、僕と愛媛FCの共通点はなんだろうと考えたときに、夢の舞台を目の前にして、なんでこんなに滾っていない感情になるんだろうと。そこでリリックにもある“イレブン・バック・トゥ・ワンダー”で、11人で子どものときの気持ちを思い出してほしいというテーマを考えました。そこにトランプゲーム「大富豪」のルールである“イレブン・バック”をかけてタイトルを付けました。革命をテーマにしたファイトソングであり、11人で戦うサッカーのピッチでも、イレブン全員の力で状況をひっくり返してほしいという願いも込めています。そんな状況も自分と共通していると感じて、僕の曲といっても遜色がなかったので収録を決めました。

――もしかして11曲にするために、3曲目にskitを入れましたか。

SKRYU 大正解です(笑)。