会いに行くことの大切さを感じる47都道府県を巡る弾き語りツアー

――「キセキ」はピアノと弦楽器をメインにしたサウンドで、編曲は宗像仁志さんが担当しています。

高橋 「キセキ」に関しては、ほぼ宗像さんに丸投げしました。僕は宗像さんの音楽が大好きで、アルバム『PERSONALITY』(20)からご一緒させていただいているんですが、ことごとく意外なものを出してくれて、「おー、そう来たか」みたいな返球をしてくれる人なんです。クリックを使わなかったりするので、ライブで表現するのも大変なんですが(笑)。そういうことをする人は少ないし、何が出てくるか分からないからこそ、宗像さんの作る音楽が好きで。ただ「キセキ」は性質的に、意外性どうこうでいく曲ではなさそうな気がしていて。宗像さんにはざっくりと「正統派で」とお願いしました。

――実際に編曲された曲を聴いたときの印象はいかがでしたか。

高橋 一周回って驚いたというか、リクエスト通り正統派のサウンドを作ってくださったんですが、要所要所に宗像さんらしい癖が出ている部分もあって感動しました。

――歌唱面では、どんなことを意識しましたか。

高橋 実はこの曲の元になっているモチーフは、すごく前からあったんです。曲としては完成していなかったけど、自分の中だけで温めていたものがあって。それを歌い直してみたら、弾き語りのラフ音源の段階で、「これでいいじゃん!」みたいな。このまま綺麗に音を整えればみんなに聴いてもらえる、弾き語りによく合う曲だなと思ったので、そのテンションのまま歌いました。

――これ見よがしに感情を込めて歌わないということでしょうか。

高橋 そうです。シンプルかつ喋っているような歌詞なので、力を入れて歌っちゃうと、わざとらしくなったり、寒くなったりになりがちなんですよね。極端に言うと、雑念をなくして頭を空っぽにして歌うというか、ぱっと今思いついたぐらいの感じで歌うほうが、この曲の歌詞へのアプローチとして合っているんじゃないかと思ってレコーディングしました。そもそも僕は編曲の人たちと一緒にやると、声をがならせて熱い感じにしたり、ハモリを重ねて鮮やかにしたり、いろいろやっちゃいがちなんです。今回は何回も何回も歌って熱血レコーディングというよりかは、できるだけ引き算で抜けて歌っているくらいのほうが、言葉もポンポンと入ってくるなと思いました。宗像さんも、今回は引き算の歌い方に賛同してくれました。

――編曲の方に細かく指示することもあるんですか。

高橋 曲によってはあります。「キセキ」に関しては、引き算ということ以外は、宗像さんの好きなようにやっていただきました。逆に前作の「雪月風花」のときは、編曲の鈴木Daichi秀行さんと会って作業することはほとんどなかったんですけど、LINEでたくさんの文章を送って、何度もラリーをして、細かく指示をさせていただきました。

――2023年12月より開催中の自身初となる47都道府県を巡る弾き語りツアー『高橋優初の47都道府県弾き語りツアー2023-2024「ONE STROKE SHOW〜一顰一笑(いっぴんいっしょう)〜」』についてもお聞かせください。

高橋 ライブに行かなくても配信があるとか、本人がステージに立っていなくても面白いものを届けられる便利な時代になりましたけど、それって寂しいことでもあるじゃないですか。やっぱり本人がその土地にやってきて、そこにみんなが集まるというような、会いに行くことって大事だと思うんですよね。僕は2016年から地元の秋田で「秋田CARAVAN MUSIC FES」というフェスやらせてもらっていて、そこには北は北海道から南は沖縄まで、各地からミュージシャンもお客さんも来てくれます。フェスは大体9月にあって、10月11月ぐらいから今度はツアーで僕が会いに行くみたいなスタンスでやっていて、一年のルーティンになっていました。ところがコロナ禍で行けない地域もあったり、久しぶりに行く地域もあったりという中で、僕の理想としては毎年、あらゆる地域に行って、会ってライブをしたかったんです。単純にそこから始まったのが今回のツアーです。

――今まで行ったことのない場所もあるんですか。

高橋 47都道府県は全て行ったことがあるんですが、通しで行くのは初めてだし、弾き語りで行くのも初めて。たとえば富山には何回も行ったことがあるけど、高岡や小矢部に行くのは初めてだったり、石川には何回も行ってるけど、いつもは金沢なのが今回は小松だったり、そういった初めての場所も盛りだくさんです。

――セットリストはどんなことを意識していますか。

高橋 セットリストは、おおよその軸があって、その日によって多少の変更はあるんですが、「一顰一笑」というタイトルに沿った内容になっていて。笑顔と、それ以外の感情の共有をしようと。楽しいときもあれば、どうしてもカチンときちゃうときもあるし、悲しい気持ちになっちゃうときもあるよね、みたいな。そういう曲も今回は迷わず入れています。