母になったことで、前よりも地に足のついた一葉が演じられるんじゃないかと感じている

――こまつ座第160回公演となる『頭痛肩こり樋口一葉』の出演は2回目になりますが、今のご心境はいかがですか。

貫地谷しほり(以下、貫地谷) 私が役者を始めた頃、先輩方に「一度は出たほうがいい」と言われるくらい、こまつ座さんは役者として通るべき道だと教わってきました。そんな、こまつ座さんの舞台『頭痛肩こり樋口一葉』に、4年前に初めて立たせていただき、また今回、再演で同じ役をできるのはうれしいことです。舞台は同じ内容でもやるたびに違って、毎日違う発見がありますが、「日本のシェイクスピア」と呼ばれる、この国を代表する劇作家・井上ひさしさんの偉大な戯曲をまた深掘りできるのが非常に楽しみです。

――貫地谷さんが演じるのは主人公の樋口一葉ですが、4年前と今回で、役の捉え方に変化はありますか。

貫地谷 この4年間で、私自身が出産を経験して母親になって、より世間のニュースにも目が行くようになりました。目を覆いたくなるような事件もたくさんありますが、以前はどこか他人事として見ていました。でも今は子どもがいることも関係していると思うんですが、こんな大変な世界で生きていかなければならないという覚悟のようなものが出てきました。そういう変化もあり、前よりも地に足のついた一葉が演じられるんじゃないのかと思っています。前回は「作家になるんだ」という一つの希望に向かって一葉を演じていたところがあったんですが、今回はもっと掘り下げて表現できるんじゃないかと感じています。

――一葉の人物像は、どういう印象ですか。

貫地谷 24歳と若くして亡くなってしまいますが、貧乏に喘ぎながらも、一家を背負って、よっぽど今の私なんかよりも大人で、今の感覚で言うと60歳ぐらいのイメージです。

――一葉が生きた明治は、「女性に地位はいらない」という時代でしたが、そんな中で様々な職に就きながらも、小説家として高い評価を獲得していきます。

貫地谷 今でこそ女性が職業を持つことは当たり前ですが、一葉のような女性の活躍があって、礎を築いてくれたからこそ今という時代があるんだなと思います。誰しも、日々を生きていく中で辛いなと感じる瞬間はあると思うんです。この舞台に出てくる人たちも、お金がないとか、夫が帰ってこないとか、みんな明日死んでしまおうかというぐらい悩んでいます。ただ井上ひさしさんの戯曲に出てくる登場人物を全力で演じていると、面白くて愛おしい素敵なコメディになるんですよね。もしかしたら今はこんなに辛いけど、後で笑えるのかもしれない。どこかでそう思えるきっかけになるような舞台になったらうれしいです。

――一葉に共感するところや、ご自身に共通する部分はありますか。

貫地谷 「明日は何を食べればいいのだろう」という悲惨な暮らしに身を置きながらも、自分ができる道を必死に探して、混沌とした世界の中でも生きていこうと突き進む強さは共感します。そんな大変な生活を送っているのにも関わらず、一葉は横になっていたり、居眠りをしていたり、縁先でぼんやり考えごとにふけっていたりするんですが、その「ぼーっとしている」時間は、いろんな考えを巡らせている時間だったりもします。一葉のお母さんから見たら、ぐずぐずしているんじゃないかというふうに見えたのかもしれませんが、そういうマイペースなところは自分も似ているなと感じます。