真っ暗闇の劇場にいることすらも、いまだに特別なものを感じる
――ここからはキャリアについてお伺いします。学生時代、お仕事以外で打ち込んでいたことはありますか。
貫地谷 それが本当になくてですね。演劇と出会うまでは、何も続かない子だったんです。

――どのように演劇と出会ったのでしょうか。
貫地谷 中学生のときにスカウトされて事務所に入ったんですが、歌やお芝居など、いろんなレッスンに通わせてもらったんです。ただ、お芝居のレッスンは「あそこに月があるから、それを見ながら泣きなさい」みたいなことを言われて、何をやらされているんだろうと疑問に思うこともありました。そういう中で、ご縁があって伊藤正次演劇研究所というところに行かせてもらったんですが、そこは思っていた演劇とは全然違っていて。涙を出すためのレッスンなんてないし、いかに自分で自分の考えを持つか、ということを重要視していました。お芝居というよりも、人としてどう生きることが大事か、それが全部お芝居に出るんだということを学んで、すごく面白かったんです。それまでお芝居というと、このセリフで、この瞬間に泣く、みたいに機械的に捉えていたんですが、もっと奥にあるものを出していくものなんだと知って、演劇にハマっていきました。
――映像のお仕事はあったんですか。
貫地谷 オーディションは受けていたんですけど、全く受からなかった時期で。中3から高2までレッスンに通っていたんですが、本格的にお仕事が始まったのは高2の終わりぐらいでした。
――レッスンはどのくらいのペースで通っていたんですか。
貫地谷 週に2、3回だったんですが、17時から終電近くまでと長かったです。ずっと先生の話を聞いているだけの日もあったんですが、全く演劇の世界を知らないから、現場でこういうことがあるんだと知れて面白かったです。半年に1回、発表会もあって、岸田國士さんの戯曲や、ブレヒトの「第三帝国の恐怖と貧困」など、先生が選んだ難しいテーマの戯曲をやっていました。
――なかなかオーディションが受からない中でモチベーションは落ちなかったのでしょうか。
貫地谷 あまりに受からないので、「もういいや。これで受からなかったら辞めよう」と思っていました。ただ、演劇は面白いから、裏方でも続けたいと思っていて。そういう覚悟の中で挑んだ映画のオーディションに初めて受かって、そこから映像のお仕事につながっていったんです。
――裏方でもよかったということは、演劇自体に惹かれていたということでしょうか。
貫地谷 発表会は衣装も転換も照明も音響も自分たちでやるんです。だから、自分が舞台の上に立たなくても、こういう仕事があるんだと学ぶことができましたし、お芝居以外のことも身近に感じていました。

――その頃、出演した舞台で、特に印象的な作品は何でしょうか。
貫地谷 2006年に出演したケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が作・演出の「労働者M」です。稽古に入ったときにはまだ脚本が出来上がっていなくて、毎日台本が1枚ずつ届くんです(笑)。当時はまだ19歳で、かなり大胆なシーンがあって躊躇しました。ところが同じようなシーンでも、共演の秋山菜津子さんは堂々とやってらっしゃって。それを目の当たりにしてかっこいいと思って、恥ずかしがっている場合じゃない、殻を破りたいと強く思ったことを覚えています。
――2007年にNHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演を務め、ドラマ・映画に引っ張りだこになりますが、演劇から離れた時期もあります。
貫地谷 その当時、舞台はご褒美みたいなものでした。20代は1年に1本、舞台があればいいという状況でしたし、やりたいけどやれない時期もありました。でも私にとって舞台は特別な場所で、場当たりのときにできる自由な時間に、真っ暗闇の劇場にいることすらも、いまだに特別なものを感じるんです。
――その後、転機となった舞台は何でしょうか。
貫地谷 2014年に舞台版「ガラスの仮面」で主人公の北島マヤを演じたんですが、私自身、大好きな漫画だったので、オファーがあったときは絶対に批判されると思ったんです。ところが演じてみると、演劇を題材にした物語を、実際の舞台で演じるという経験が劇的で、新たな体験ができて楽しかったんです。おかげさまで好評で、2016年にも再演することができました。
――最後に『頭痛肩こり樋口一葉』の本番で楽しみにしていることを教えてください。
貫地谷 こうやって舞台と向き合うのは4年ぶりですし、映像も含めて、がっつりお芝居をするのは3年ぶりなので、すごく楽しみですし、怖くもあるという状態です。ただ久々に台本と向き合ってみたら、以前とは違う世界が広がって見えてきたので、それを舞台でやってみるのが今からワクワクしています。栗山民也さんという素晴らしい演出家のもと、前回よりもブラッシュアップした樋口一葉をお見せできるんじゃないかと思っていますので、ぜひ観に来ていただきたいです。
Information
こまつ座第160回公演 『頭痛肩こり樋口一葉』
<東京公演> 2026年7月29日~8月30日 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
<地方公演> 2026年9月 群馬、岡山、岐阜、山形、石川、大阪
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:貫地谷しほり 増子倭文江 香寿たつき 瀬戸さおり 岡本 玲 若村麻由美
夭折の天才女流作家、樋口一葉の十九歳(明治二十三年)から一葉の死の二年後の明治三十一年までを、一場をのぞいて、それぞれの年の盆の七月十六日の夕刻に展開する、樋口一葉の評伝劇。父や兄に先立たれ、若くして樋口家の戸主となった夏子(樋口一葉)の肩には、母・多喜と妹・邦子との貧しい生活が重くのしかかっていました。母の期待や妹の優しさに応えようと孤軍奮闘の日々を送ります。恋をする自由も将来を夢みる余地もない夏子は閉塞感に押しつぶされそうになり、ついには、ただ墨を擦り、筆を動かすためだけに身体をこの世に置いてある、そう心を決めます。そして、明治二十四年の盆の夕刻。「ぼんぼん盆の十六日に 地獄の亡者が出てござる……」少女たちの歌う盆歌に導かれて、一人の幽霊が夏子のもとを訪れてきます。「花螢」と名乗り、歌い踊る幽霊。夏子と幽霊は、互いに心を通わせ合いますが……。
貫地谷しほり
1985年12月12日生まれ。東京都出身。2002年に映画デビュー。NHK 朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」で主演を務めて人気を博した。その他 NHK大河ドラマ「龍馬伝」「おんな城主 直虎」、連続テレビ小説「なつぞら」、TBS 日曜劇場「テセウスの船」などに出演。第32回エランドール賞新人賞(2008年)の他、映画「くちづけ」では第56回ブルーリボン賞主演女優賞(2014年)を受賞している。活動の場は芝居だけにとどまらず、声優やナレーションなど幅広い分野に及んでいる。【舞台】『余命1ヶ月の花嫁』で初主演し、以後、多数の舞台にも出演している。主な出演作品【映画】「総理の夫」、【舞台】『ガラスの仮面』(演出:G2)、『ハムレット』(演出:ジョン・ケアード)等。井上作品には『もとの黙阿弥』(演出:栗山民也)、『泣き虫なまいき石川啄木』(演出:段田安則)に出演。こまつ座では 22年の同作に続いて出演。
INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:北 一騎(Permanemt),STYLIST:mick(Koa Hole inc.)
